リモートワークで差がつく「書く力」 高めるための実践アプローチ
リモートワークの普及に伴い、働き方は大きく変化しました。対面での会話が減少し、メール、チャット、オンラインドキュメントといったテキストベースのコミュニケーションが増加しています。このような環境下で、情報を正確かつ効率的に伝え、相手を動かすための「書く力」の重要性がこれまで以上に高まっています。
リモートワークで「書く力」が重要視される理由
リモートワークでは、非同期コミュニケーションが増える傾向にあります。非同期コミュニケーションとは、メッセージを送る側と受け取る側がリアルタイムでやり取りをしない形式です。例えば、メールやチャットでの情報共有、ドキュメントでの指示などがこれにあたります。
非同期コミュニケーションでは、対面のように相手の表情や声のトーンから意図を読み取ることが難しくなります。また、その場で質問して疑問を解消することもできません。そのため、送られるテキスト情報そのものが、意図や背景、必要な行動を正確に伝えるための唯一の情報源となる場合が多くあります。
- 誤解のリスク増加: 曖昧な表現や不足した情報は誤解を生みやすく、後からの確認や修正に時間を要します。
- 情報伝達の非効率: 要点が不明確な長文や、必要な情報が散逸した文章は、読み手の理解を妨げ、生産性を低下させます。
- 記録としての重要性: テキスト情報は履歴として残りやすく、後から参照される可能性があります。分かりにくい文章は、後々の業務に支障をきたすこともあります。
これらの理由から、リモートワークにおいて「書く力」は、単なるコミュニケーションスキルに留まらず、個人の生産性やチーム全体の連携、ひいてはビジネスの成功に直結する重要なスキルとなっているのです。
リモートワークにおける「書く力」を高めるための実践アプローチ
では、どのようにすればリモートワーク環境で「書く力」を高めることができるのでしょうか。ここでは、具体的な実践アプローチをいくつかご紹介します。
1. 目的と読み手を明確にする
文章を書き始める前に、まず「この文章で何を達成したいのか(目的)」と「誰に伝えたいのか(読み手)」を明確に定義します。
- 目的の明確化: 情報を共有したいのか、何かを依頼したいのか、承認を得たいのかなど、文章の最終的な目標を具体的に設定します。目的がブレると、文章全体の構成や内容が曖昧になります。
- 読み手の想定: 読み手の背景知識、関心、文章を読んだ後にどのような行動を取ってほしいのかを想定します。専門用語の使い分けや、提供すべき情報の詳細レベルは、読み手によって調整が必要です。
目的と読み手が明確になれば、必要な情報を選び、どのように構成すれば最も効果的に伝わるかを考えることができます。
2. 結論や最も重要な情報を最初に提示する
特にビジネスコミュニケーションにおいては、結論や最も伝えたい情報を文章の冒頭に置くことが効果的です。これは「結論先出し」や「ピラミッドストラクチャー」と呼ばれる考え方に基づいています。
リモートワーク環境では、多くの情報が飛び交い、一つ一つのメッセージにかけられる時間は限られています。最初に結論を示すことで、読み手は短時間で文章の要点を把握でき、その後の詳細を理解しやすくなります。
例: * 「〜について、以下の理由からA案を推奨します。」 * 「本件、〇〇の承認をお願いいたします。」
3. 簡潔で具体的な表現を心がける
リモートワークでのテキストコミュニケーションでは、冗長な表現や抽象的な言葉は避け、簡潔かつ具体的な記述を心がけます。
- 不要な修飾語や比喩を減らす: 事実や必要な情報だけをシンプルに伝えます。「〜だと思います」「〜かもしれません」といった曖昧な表現ではなく、「〜です」「〜が必要です」と断定的に、しかし根拠に基づいて記述します。
- 具体的な数値や事実を盛り込む: 「売上が伸びた」ではなく「前月比15%売上が増加した」、「会議で議論した」ではなく「〇〇に関する会議で、△△と⬜︎⬜︎の2点が議論された」のように、客観的な情報を含めます。
- 一文を短くする: 句読点が多く、主語と述語の関係が分かりにくい長い文章は、読み手の負担になります。意味の区切りで適切に文を分けます。
4. 論理的な構成で記述する
文章全体が論理的に繋がっていることは、読み手の理解を深める上で不可欠です。前述の結論先出しに加え、理由や詳細を順序立てて説明します。
よく用いられる構成方法として「PREP法」があります。
- Point(結論): 最も伝えたいこと
- Reason(理由): なぜそう言えるのか
- Example(具体例):具体的な事実やデータ
- Point(結論):改めて伝えたいこと
この構成を用いることで、主張の根拠が明確になり、説得力のある文章を作成できます。
5. 推敲と見直しの習慣をつける
文章を作成した後、すぐに送信するのではなく、一度立ち止まって推敲する習慣をつけます。
- セルフチェック: 誤字脱字がないか、敬語は適切か、論理が飛躍していないかなどを確認します。声に出して読んでみると、不自然な箇所に気づきやすくなります。
- 読み手の視点で確認: 自分が読み手だったら、この文章で目的を理解できるか、必要な情報が揃っているか、不明な点はないかを想像して読み返します。
- 校正ツールの活用: WordやGoogleドキュメントに搭載されている校正機能、あるいは専門の校正ツールを活用することも有効です。
短時間でも良いので、送信前に見直しのプロセスを入れるだけで、文章の質は格段に向上します。
6. ツールの活用と社内ルールの理解
使用するツール(メール、チャット、ドキュメント作成ツールなど)の機能を理解し、適切に活用します。例えば、チャットでのメンション機能、ドキュメントのコメント機能、メールの件名の付け方などです。
また、チームや組織内で情報共有やコミュニケーションに関するルールがあれば、それを理解し、遵守します。共通のルールがあることで、チーム全体のコミュニケーション効率が向上します。
まとめ:書く力は継続的な学習で向上する
リモートワークにおける「書く力」は、一朝一夕に身につくものではありません。今回ご紹介した実践アプローチを意識しながら、日々のコミュニケーションを通じて継続的に改善を図ることが重要です。
自分の書いた文章を客観的に振り返る、他の人の分かりやすい文章を参考にする、信頼できる同僚にフィードバックを求めるなど、意識的な取り組みがスキル向上につながります。
「書く力」を高めることは、リモートワークでの生産性を向上させるだけでなく、思考を整理し、自身の意見やアイデアを明確に伝える力を養うことにも繋がります。ぜひ、今日から「書く」という行為に意識的に取り組んでみてください。